この記事を読んでいただきたい方:
モルタル充填式鉄骨階段の錆び問題に関する防水対策を「どこまでやればいいの?何ができるの?」とお悩みの建物オーナー様向けにこの記事を書きます。
アパートでよく見かける写真のような階段を「モルタル充填式鉄骨階段」といいます。段板がモルタルになっている階段です。このタイプの階段の錆び腐食傾向は「モルタルに水が入って錆びが始まって強度が落ちる」という点です。
モルタル充填式鉄骨階段の弱点(事例)
モルタル充填式鉄骨階段の弱点はモルタルからの浸水腐食です。上の写真が起こりうるトラブル例です。「まず床面(モルタル)に雨水が入って中の鉄骨が錆びる。その結果、段板が外れて事故が起きる」という仕組みです。築40年前後のアパート階段で起こりうる問題です。
一度モルタル面に雨水が入ってしまうと内部の鉄板が錆びて膨張します。膨張しながらモルタルを押す格好になるのですが、このときにモルタルに負けて鉄板が反ってしまいます。結果的にモルタルと鉄板の間に「溝」が広がり、ここにさらに雨水が入って腐食の負のループが始まるのです。
腐食トラブルを回避するための防水対策の「グレード」
この問題を解決するためにタキステップと呼ばれる長尺シートを用いた施工が有効です。
(タキステップ工事のメリットやデメリットは別ページで解説)
タキステップは、モルタル面に敷設することで浸水ルートを遮断して、鉄骨寿命を延ばすこができる便利なアイテムですが「事前措置」を行うことで防水効果が段階的に向上します。大きく分けて3種類の工法に分かれます。それぞれ追加費用のかかることなので、費用対効果をよく考えていく必要があります。この選択はオーナー様のお考え次第となりまして現地お打合せでもご説明させていただいております。それぞれどのようなグレードがあるのかご紹介します。
線防水、ベンチレイシート、左官。いろいろな事前措置
長尺シート事前措置その1:線防水
長尺シートを施工する前に、モルタル面の左右両端100mmに防水塗布をしておくことを「線防水(せんぼうすい)」といいます。長尺シート端部シーリングが劣化破断したとき(想定8年前後)に、一時的に床面モルタルへの浸水を防ぐ効果があります。既存床面の状況が深刻(クラックや爆裂、部分欠損など)であるときに推奨される工法です。
長尺シート事前措置その2:ベンチレイシート
既存モルタルの状況によってはモルタル内部に水蒸気を内包してい場合があります。水蒸気が外部に逃げようとしたときに長尺シートを押し上げて「水ぶくれ」のような症状が出ることがごく稀に生じます(当社も1件しか経験はありませんが)。この現象を回避するため数年前にメーカーが開発したものが「ベンチレイシート」です。防水措置のひとつである通気緩衝工法の効果を階段各段に与えるアイテムです。
水蒸気が長尺シートシートを押し上げないよう、通気緩衝工法と同じくようにして水蒸気を外に逃がす工法なのですが長尺シートと床面を直接接着できないデメリットがあるため、延命補修という視点から見ると必須アイテムとは言えないと弊社は考えます。
ベンチレイシートの厚みは1,6mmあります。長尺シートの厚みが2,5mmなので、両方敷くと床面が4mm近く上がることになります。施工環境として問題ないかも確認しないといけません。なぜなら、廊下に敷いたらドアが開かなくなる・・?というトラブルも聞きます。
長尺シートの事前措置その3:左官
新築工事と違い、経年変化のあるモルタル床面は「床勾配」や「排水勾配」が機能していないことが多いです。長尺シートを敷設することで浸水ルートを防がれた雨水が床面に停滞することがあります。これは長尺シートが既存の床勾配をそのままトレースしてしまうからです。
これを解決するために左官工事をやり直す選択肢があります。
ただし勾配を戻すためには、低いところでも数センチ以上を左官しないといけません(薄すぎると剥がれてしまう)。このときのモルタル荷重や工事費用が「鉄骨設備延命」において必須とはいえず、「水たまりが出来たら掃いておけばいい」と判断されるオーナー様が多いです。
参考:
どこまで今後の腐食リスクに備えるのか?
これら長尺シートにまつわる「どこまでやるか」問題はどこまで今後のリスクに備えるのかという意味であり、どこか生命保険に似ているような気もします。費用を捻出すればするほど「安心」が手に入るかもしれませんが価値のある投資と言えるでしょうか?
300人以上のオーナー様と延命補修工事に従事してきた統計としては、線防水以外はそのまま長尺シートを施工するケースが90%くらいです。新築工事と違って延命工事ではコストパフォーマンスがよりシビアになるため、現実的(計画的?)な選択をされることが多い印象です。
鉄骨設備延命という視点からシビアに考えてコスト重視策でいくか、包括的に計画していくかについて正解はありません。オーナー様によって建物運用方針(維持年数)もさまざまです。
私どももオーナー様と一緒に考えます。階段の防水方法をお気軽にお問い合わせください。
参考:
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